〔heroique〕〜闘将〜


ローランディア王国の騎士、グローランサー、ウィスト。
2度も世界を救った少年は、今手に入れたかったものを手に入れていた。
それは穏やかな日常。
戦うために産み出された彼であるが、彼が望んでいたのは平穏だった。
ゲヴェルにできそこないと何度も言われていたが、確かにそれはそうなのだろう。
彼にはゲヴェルの私兵として当然にあるべきものがなかった。
それは、闘争心。
ゲヴェルからみれば、それはできそこない以外、何物でもなかった。
できそこないがウィストで、その彼がたまたまローランディアを内部から崩壊させるという役目を与えられなければ、世界はどうなっていたのだろう。
もしも、別の私兵がローランディアに送られたのならば、間違いなくローランディアは滅んでいただろうし、ウィスト自身はゲヴェルの支配化で処分されていただろう。
偶然が重なり合って手に入れた平穏。
それを誰よりも何よりも待ちわびていたのは、市民でも誰でもなく『グローランサー』本人だった。


彼のお気に入りの場所はアーリア。
彼自身の手により作られ、発展してきた街である。
王都からすぐの位置であるにも関わらず、緑豊かなその街は穏やかな観光地として有名だった。
街の喧騒に疲れた人が羽を休めにくる場所。それが英雄の作った街『アーリア』だった。
したがって、アーリアには必要以上に人が集まることはない。
街を発展させるには人を集めるべきだろうし、もっと近代化した方が良いだろう。
けれど、領主たる少年はそれを望んでいなかった。
「やっぱりここにいたのか」
「・・・・・・ああ、ここが一番いい風がくるんだ」
アーリアの中でもとくにウィストが気に入っている場所は湖の近くの木陰だった。
柵がかけられているため、一般の人間は立ち入ることができないが、ウィストとごく僅かな者は平然と乗り越えていく。
だから、ここで転がっているウィストを発見するのはいつも決まっていた。
今日も彼を見つけたのは盲目の剣士である。
「・・・・・・・・・・・・邪魔して悪いんだが、書簡を預かってきた」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そう」
来訪者たるウォレスが言いづらそうにして渡す書簡など、中身はわかっている。
大方国王から届けられたものだろう。
眺めていても仕方ないので、ウォレスから一応は受け取る。
しかし、そのまま見もせずに脇に転がすと、再び心地よい風に気を緩める。
ウォレスはそんなウィストの様子を見ていたが、わかりきった動作に溜息をつきながら彼の隣へ腰を下ろした。
再び訪れた静けさとやわらかな風のささやき。
二人はそのまま身をゆだねていたが、それを打ち破ったのは盲目の男の方だった。
「・・・・・・どうするつもりだ?」
「・・・・・・・・・・・・どうしようか?」
何を、という主語も目的語も何もない。
それだけで二人にはわかるのだ。
二人が思うのはこの空間に異質なものとして置かれている未開封の書簡と、その差出人のこと。
「騎士を、辞めるつもりはないのか?」
不可能。
そうわかっていても、ウォレスは尋ねずにはいられなかった。
本人が望もうと、望まざるともウィストは『英雄』と言う肩書きを持っている。
そして、それを王であるコーネリアスが手放すはずもない。
わかりきったことではあるが、少年は騎士には向いていない。
剣術、戦術、知識。
そう行ったことは彼以上に騎士にふさわしい者などいないだろう。
けれど、それ以上に心がふさわしくない。
闘争心のない騎士。
それがウィストだった。
騎士として必要なもののなかで、後から植えつけることのできるものは、十分なほど持っている。
しかし、もともとの本人の気質と言うものだけはどうしようもない。
「騎士を辞めるってことは、ここも返上するってこと?」
「・・・・・・・・・・・・そうだったな」
もともとこの土地は先代のアルカディウス王がウィストに与えてくれたものだ。
先王ならば、騎士の位を返上したところで土地をも返せとはいわなかっただろう。
だが、現王ならば言いかねない。
そもそも、この土地は非常に立地条件がいい。
ウィストが街をつくるまで見向きもされなかった場所であるが、街となった今、やり方によっては巨大な収入源とすることもできる。
近代化して、娯楽街のように、人が集まる様にすればいいのだから。
現王になってから、この土地の国に納める税金は倍増したといっても過言ではない。
今までの税金であれば、アーリアの宿泊施設からの収入で十分だったが、今の額はかなりのものである。
現王は、この土地をもっと発展させよといっているのだ。
しかし、ウィストは頷きはしない。
増額した税金は彼自身によって納められていた。
したがって税金は間違いなく納められている。
にもかかわらず、はっきり言って現王の風当たりは強くなる一方である。
それでも王はウィストを、いや『グローランサー』を手放すことはない。
隣国バーンシュタインの新IKウェイン=クルーズが『グローランサー』と呼ばれるようになってからそれはなおさらである。
「この土地を王に返上すれば、間違いなくアーリアは『アーリア』でなくなる。それが良いことなのか悪いことなのかは俺にはわからないけれど、ここを変えたくないんだ」
「それはわかるがな。しかし、お前は騎士には向いてねぇだろうが」
騎士には向いていない。
そんなことは誰よりもウィストが知っている。
「うん、向いてないね」
短く返事を返して、ゆっくりと目を閉じた。
視界を閉ざせば、更に風を全身で感じることができる。
それと同時にさざめく木々の声。
自然に愛された動物達の声。
風に撫でられ、かすかに揺れる水面の音。
全てがウィストにとってかけがえのないものだった。
「人って不思議だと思わない?平和を乱すのも人なら、平和を願うのも人。平和を取り戻すのも、・・・・・・一応、人だし」
「・・・・・・そうだな」
「俺は、平穏があればいいだけなんだけど。ああ、あと大切な人達が側にいてくれたらそれでいいよ」
そう呟くと、不意に立ちあがった。
そしてそのままウォレスの背後にまわる。
意外な行動であるが、ウォレスは気にせずそのまま座っていた。
「自然の囁きも好きだけど、人肌も好きなんだ。とくに、ウォレスは『生きてる』って感じがするから」
背後から聞こえてきた声の持ち主はそのままウォレスの背に体を預けてきた。
「人に触れたがるのはそういう理由か?」
「・・・・・・そう。それと、一人じゃないって思えるからね」
置いてけぼりを食らった子犬の様に温もりを求める少年。
いかに多くの人が周りにいようとも、彼にとって満たされるものでない限り、孤独でしかないのだろう。
「お前は一人なのか?違うだろう?」
「うん、一人じゃない。それはわかってる。でも、それでもやっぱりどうしようもない孤独感が締めつけることがあるんだ。体が、証を求めているようにね」
だから、こうしてエネルギーを補給するんだよ。
そう言って少年は再び目を閉じる。傍らの男に体を預けたまま。
平穏という世界の中。
身近に心を許せるものがいる。その温かさを感じることができる。
それが、彼の求めていたもの。
だが、それを乱そうとしているものは間違いなくいて。
思い出した様にウォレスは無造作に転がっていた書簡を開いた。


騎士ウィスト=ホーレク。
ランザック王国へ赴き、その復興具合を調べよ。
その際、ローランディアにとって障害となる者がいたならば、その排除は辞さぬ。
すぐさま出立し、速やかに国王へと報告せよ。


ふざけた内容である。
ランザック王国へはローランディアから既に幾人もの兵士が行っているし、定期的に連絡も来ているはずである。
それなのに、騎士たる地位を持つウィストに様子を見に行って来いというのだ。
しかも、障害は排除せよ?
何を考えているのだ、あの王は。
再び戦争を引き起こすつもりか?
ウォレスが書簡を手にしたまま怒りに震えていると、それを横から奪われた。
当然、奪った相手はその書簡の受取人である。
「・・・・・・速やかに出立せよ、か。こんな紙切れ一枚で人間を動かせるんだから、王ってのはすごいよな」
「あの王は城の中以外のことを知らなさ過ぎる。しかも知ろうともしてねぇ。・・・・・・・欲の塊ってのはああ言うのを言うんだろうな」
「王という地位を絶対的だと考えているんだろうね。まあ、覆すものはとりあえずはいないみたいだし、仕方ないと思うけど?」
覆すもの。
もしもこの少年が覆そうと考えれば、3日もしないうちにローランディアは変わるだろう。
けれど、彼はそんなことは考えることはない。頭に浮かぶこともないだろう。
彼が立ちあがることがあれば、ランザックもバーンシュタインも、魔法学院でさえ、無条件に協力してくれるだろうに。
「王命か。めんどくさいなぁ。このままこうしているのが気持ちいいんだけど、そうも言ってられないか」
名残惜しそうにウォレスの体から身を離すウィスト。
その気配がかなり寂しそうなのは、ウォレスの気のせいではないだろう。
溜息を漏らしながらも、ウォレスも彼に続いて立ちあがった。
「時間はあるからな。館まで付き合うさ」
「ついでに、準備を手伝ってくれない?」
にっこりと微笑みながら、その双眼を一心に向けてくる少年。
甘やかしてはいけないと思いつつも、その甘えについつい手を出してしまう。
「まあ、いいだろう」
それが単なる我が侭ならば、厳しくすることもできるのだが、彼は我が侭というものは一切言わない。
それがウィストの美点でもあり、危ういところでもあるのだが。
そうして、二人は連れ立って少年の住まいである館まで歩いていった。



 あとがき 


騎士なになってからも問題が続く…。
とUの設定が分かるようになっただけ主人公の気持ちもよ〜く分かるようになりました…(笑)

主人公の気持ちが痛いくらいに健気で、ホロリとなっちゃいます。
騎士は辞めたいけど、辞めれない。
ジレンマな感情がとってもストレートに出ててググッと引き寄せられますv
同じくらいウォレスも格好良くって思わず頬が頬が・・・ッ!!
かなり無理を言って貰った小説ですが、こんな素晴らしい小説が返って来るなんて棚からぼた餅?
否!月とスッポン!(違)
こんな素晴らしい小説を書いて下さったΣ様に感謝感激です♪



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