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「ひーちゃん、おはよーさん」

早朝から珍しい顔を見るものだ。
龍麻は玄関のドアを開けて一番にそう思った。
なんて事はない、何時も遅刻魔人の京一が立っていたからだ。
しかも私服である…何を考えているのか分からず首を捻った。

「どうしたんだよ?こんな早くに珍しい…」

心からの疑問をぶつけると、京一がニカッと笑ってのたもうた。

「デートしようぜ♪」
「………は?」
「だからデートだって!たまには二人っきりで遊ぶのもいいだろ?俺達恋人同士なんだしよ」
「それで私服なのか。京一…お前単位足りるのか?卒業出来なくても知らないぞ」

学校をさぼるのに抵抗はある。
学生の本分は勉強だから…そう思っている。
戦闘などでやむを得ない時以外にはさぼった事はないのだ…
それでも京一の二人でいたいという気持ちも正直嬉しい。
こんな事は口が裂けても云えないが。

「今でも十分危ないけどよ、だったら一日くらい気にしてもしょうがないだろ」

あっけらかんと言い放って、龍麻を着替えさせ外に連れ出した。
否とは言わせない強引さに思わず苦笑する。

「ところで、何処行くんだ?俺はあんまりお金ないよ?」

暗に遠出は無理だと言って笑うと、京一がポケットから何かを取り出した。

「これ、姉貴に貰ったんだよ、平日なら空いてるだろうし行こうぜ」

まじまじと見ると、どうやら何かの催しものの入場券らしい。
別に反対する理由もなくて曖昧に頷いた。


受付でチケットを渡して中に踏み入ると、平日な事も手伝って閑散としていた。

(こんな所は一人では絶対に来ないな…)

どうやら世界の花の祭典らしい?
場違いというようなものでもないが、花を愛でる趣味は持ち合わせていない。
美しいとは思う――
けれどわざわざ見ようと思う事はないのだ。まして男の二人連れで来るものだとも思えない。

(京一が来たがるとも思えないけれど…)

ちょっと気恥ずかしい気分で辺りを見回した。

「あーやっぱり空いてるな。たまにはこういうゆっくりした所で二人っきりってのもいいよな♪」

少し落ち着かない龍麻に京一が笑って云う。パンフレットを広げてあっちだと促した。

「なあ、京一。何でって聞いてもいいか?」
「何が?」
「どうして急にデートなんて云いだしたんだよ?」

足を止めて京一がふと考える顔になった。
何時もより少し真剣な目で龍麻を見ると、困った様に笑う。

「ひーちゃんを独占したかったから」
「……!」
「ひーちゃんはさ、仲間の事考えない時なんてないだろ?今日ぐらい…俺だけを見て欲しかったんだよ」

そう云ってさっさと歩き出す。後ろから見ると耳が少し赤くて、何だか龍麻は可笑しくなった。
何時もは強引で押しが強い京一が、珍しく照れているのがひどく新鮮だった。
そして少し拗ねているのにも初めて気づく。何時も一緒にいたのに、そんな風に思ってたのかと改めて知った。
先を行く背中に追いついて、大きなガラス張りの温室に入ると、一面に百合の花が咲き誇っていた。

「うわーキレー」

感嘆して声を上げると、京一が更に奥へと進み手招きした。

「ひーちゃん、こっち」

順路に従ってゆっくりと散策する。
穏やかな時間の流れに、何時もの現実が遠ざかって行くような気がして京一の背を一つ叩いた。

「ありがとな、京一」

微笑んで礼を述べると、京一が驚いた様に振り返った。

「凄い、楽しい」
「…ひーちゃん」
「さっ!次の所に行こう。時間が勿体無い」


それからも綺麗な花達を堪能し、何気ない会話を京一と沢山交わして――。
一通り会場を回って外に出れば、もうすぐ日が暮れそうな時間だった。
そんなに長い間、ここに居たのか…ふと隣の京一を見上げれば、視線があった。
軽く微笑むと、京一も笑う。
何だか何時もより優しい瞳に、ドクンと鼓動が鳴って落ち着かない気分にさせられた。
ひどく愛しそうな眼差しに、嬉しさと羞恥が込み上げる。

(うわっ!何か俺ヤバイかも…)

顔が赤くなるのが自分でも分かる程で、慌てて目を逸らすと足を踏み出した。
気づかれてなるものか!と素早く身を反転させて、京一から離れる。

「ひーちゃん?何だよ、おい!待てって!」

京一が後ろから追いかけて来るのを感じて、振り返った。
別に置いて行きたいわけじゃなくて、恥ずかしいだけなのだ。
俯き加減で立ち止まった龍麻に、京一が近づいて笑った。
面白そうに覗き込んで来るのを目を合わせないように背ける。

(〜〜〜っ!!…そんなに見るなよ〜〜)
「!」

手をぎゅっと握られて、益々顔が赤らむ。

「な…何して!」
「ひーちゃん、顔真っ赤だぜ。さっき俺に見惚れてたろ?」

ニッと意地悪そうに笑って指を絡めるのに、ぎょっとして辺りを見回した。

「京一!人がいるんだぞ!」
「大丈夫、誰も見てねぇよ♪それよりほら!夕日綺麗だろ?」

云われて西の方向を見れば、何時もと違う景色に沈んでいく太陽が見えた。
世界も隣の京一も自分さえもが、金色の光に包まれている錯覚に――美しさに心奪われる。
見つめる先で、やがて光は弱くなり赤く空が染まって行くのを二人でぼんやりと眺めていた。
完全に日が沈むまで二人で見送って、歩きだす。
手は繋がれたままで、京一が離す気配もなかった。
しっかりと絡められた指が、力強く龍麻を引いて行く。

「なぁ、ひーちゃん」
「んー何だよ?」
「今日は本当ありがとな…俺の我が儘だったからよ…」

ポツリと前を向いて呟く京一に、思わず立ち止まってしまった。
つられて京一の足も止まる。
繋いだ手をぐいっと引寄せて、近づいた顔に素早く唇を触れあわせた。
目の前で驚く京一の顔が、可笑しくて前髪をツンツンと引っ張り口を開いた。

「バーカ。俺、楽しいって云っただろ?お前だけじゃないよ、二人きりで嬉しいのはさ」

微笑んで、情けない顔の京一にもう一度唇を寄せた。

「…ひーちゃん…どうしよう…俺すっげ嬉しいわ…」

口を抑えて真っ赤になる京一に、龍麻も赤面する。
らしくない自分の行動に、我に返った恥ずかしさが手伝って。

「……帰るぞ!」

怒った様な口調になりながらも手は離さないまま歩き出す。

(今日ぐらいは、こういうのもいいかな…京一の手が暖かくて、解けないなんて。何時もは云えないから)

「ひーちゃん、好きだぞ」

立ち直った京一が何時もの調子で囁いて来るのに、はいはいと相槌を返す。

「っちぇ、俺は本気で云ってんのによぉ…」

情けない声に噴出しそうになりながら、それでも幸せな時間を噛み締める。
闇の中を歩いて駅までたどり着く頃に、分かってるよと小さく応えた。
更に小声で付け加える。



―――悔しいけど、俺も大好きだよ―――



 あとがき 


氷月かずめ様の素晴らしいサイトで3000番を踏んだ記念に頂きました♪
書き込みもしない見る専用の人だったのにも関わらず、こんな素敵な作品を書いて頂けるなんて…vv
海より深く感謝させて下さい。

とても甘い京主だったので、頬が緩んでしまって引き締まりませんv
可愛い(と私は絶対に確信してます/爆)龍麻が良い味を出していて、京一もまた格好良い(と私は…/以下略)ので幸せですvv

こんなデートを見るためなら、私は壁に一年ぐらい張り付いてても平気ですヨ☆(笑)


本当に素晴らしく甘い小説をありがとうございました☆


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