壱百個変


今日は嫌な予感がしていた。
俺様こと、蓬莱寺京一様の第五感が唸って光っている。

「何神妙な顔してんだ?京一」
「あ?龍麻か……いや、な…」

龍麻がラーメン屋に誘ってくるが、俺はそれには応じなかった。
なぜか、アイツとラーメン屋なんかに行ったら、絶対に後悔しそうだからだ。

「なぁ、龍麻。今日は俺とここに残れ」
「ここって……教室か?」
「ああ。教室に二人で居るんだ」

夕暮れの教室が、橙色に染まる。
俺と龍麻の顔も、教室と共に綺麗な橙色に染まっていく。
……が、

「…京一…俺はソッチの気は無いぞ……」

橙色に染まっていく俺と教室に反し、
龍麻の顔は青色に染まっていく。

「じゃかしい!俺と一緒に残りやがれ!ぜってーいいモン見せてやるから!」
「いーやーーー!おーかーさーれーるーー!!」
「誰が野郎なんか犯すか!」
「しくしく…(泣)…ゴメン…アン子…貞操は守れなかったよ…」

俺の顔も青色に染まる。
しくしく泣いている男と、その男をただ呆然と見詰めている男。
その奇妙な組み合わせを、教室の外から見ている者がいた。

「きょ…京一……」
「あん?……て!タイショー!?」

何故か醍醐が教室の扉にしがみ付いている。
そう、例えるなら巨●の星の主人公のお姉さんだ。
アレが木じゃなくなって、教室の扉になっているだけだ。

「醍醐…キモいからやめねぇか?」

青い顔がさらに蒼白になる。
しかし醍醐は、一向にやめる気配が無い。
むしろ、泣いている龍麻の方と、俺の方を交互に見ている。
そして───

「京一はあんなヤサ男が好みなのかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

バギィィィィィィッッッッッッ!!!!

「んがぁっ!?」
「しくしくし…ってぇぇ!どぅおぁあ!?!?」

醍醐が隠れていた扉をブチ壊し、残骸を掴んで突進してくる。
……俺に。

「ぅぅぅぅおおおおおおおおおお!!!!京一ィィィィィィィィィ!!!!!!」
「ひっ…ヒィィィィィィィィィィィィ!!!!」

醍醐が教室の机を弾き飛ばしながら突き進んでくる。
俺は教室の隅に居たが、龍麻は中央に居た。
しかも俺と龍麻と醍醐は直線距離にある。
だから当然……

ドガァァァッッッッ!!!!

「ギニャァァァァァァァ!!!!!!!」
「たっ…龍麻ぁぁ!!!!!」

偉い勢いですっ飛んでいく龍麻。
ガンゴン天井やら床やらに体を打ちつけ、跳ね上がる。
その度に、醍醐がブチ壊していく、机やらコンクリートの床やらの残骸が、
唯の肉の塊と化しかけている龍麻に追い討ちをかける。

ガスッ!ドガッ!バキャッ!

「龍麻ァァァァ!!!!」

俺の魂の叫びも虚しく、龍麻は教室に沈む。
何故か顔は安心しきったようだった。

(フッ…京一…卒業しろよな……)

ドサリと撃沈龍麻君。
でも、俺は死に際(?)のアイツの言いたい事が解ったので、
アイツを弔う気は無くなった。むしろトドメさしたる。絶対に。
龍麻が弾き飛ばされて撃沈するまでの間、僅か1秒。あわれなり。


…その前にコイツをどうにかしねーとな。

「ぎょょょょいぢぃぃぃぃぃぃ!!!!」

男泣きしながら突進してくる。
鼻水と涙で合成された男汁があたりに飛び散る。

「……汚ねぇ…」

「汚いのは貴様だ京一ぃぃ!!俺の純情な心を踏み躙りやがってぇ!!」
「人聞きの悪ぃ事言うんじゃねぇ!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「聞いてねェェェェェェ!!」

ついに俺の前にまで迫ってくる醍醐。
俺はその気迫にすくんで動けなかったのだ。
だが、

ピタリッ

急に醍醐の動きが止まる。

「……あ?どうした?」
「い、移動力がなくなった」

敵ターンが終わり、味方ターンになる。
味方は俺一人。敵は醍醐一人。

「ぶわぁぁっはっはぁぁ!!残念だったなぁ!!タイショー!!」

木刀を取り出し、指を指して笑ってやる。
すると醍醐はかかって来いといい、ファイティングポーズをとる。
俺はにやりと笑うと、木刀を握る手に力を込めた。

「じゃ、遠慮無く……八相斬り!!」

俺の木刀が醍醐相手にクロスに切り込まれる。
しかし醍醐にはたいしたダメージも無く、八相斬りを受けるとニヤリと笑った。

「こっちの反撃だな…」
「はぁ?反撃ぃ?」

醍醐は動こうとするものの、金縛りにあったように動けない。
動けないという事実に困惑する醍醐。

「なっ、何故だ!何故反撃が出来ない!!」
「……タイショー、このゲームは反撃っつーコマンドはねぇぞ?」

ガガーーーーーン!!!!

醍醐の表情が険しくなる。
どうやらゲームシステムを上手く理解していなかったようだ。
この小説の作者のような、至極初歩的なミスに気づく醍醐。

「そっ……そんな……」

醍醐の顔が王●の紋章のように急に少女チックに変る。
醍醐なら●家の紋章っつーよりも、ゴル●13ってカンジだろうに。

「まっ、そこら辺はご愁傷様っつー事で……諸手上段ッッ!!」

バキャャッッ!!

「うおぉっ!!」

俺の一太刀を受け、醍醐が2スクエア分吹っ飛ばされる。
だが、2スクエア先には……

「フッ、決まった……ってぇ!しまった!ソッチは窓…ッ!」

ガシャァァァァァン!!!

うおぉおおおぉ
ぉぉぉおぉぉおぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ

窓ガラスの破片と共に醍醐の身体が校舎の3階から華麗に飛ぶ。
いや、今のはちっと綺麗に表現しすぎた。
「3階から乱れ落ちる」だ。うん。そうしよう。

「ってぇ!?!?そんな場合じゃなかったァァァ!!」

俺は急いで窓から下を眺める。
するとそこには───

「………………。」

赤い絨毯の上で醍醐が気持ち良さそうに日向ぼっこしている。
気持ち良さそうに、小刻みに痙攣なんかして。
時折口からトマトケチャップを吐き出している。

「な〜〜〜んだ♪無事じゃん♪」

俺はついに現実逃避を始めた。
醍醐は今、トマトケチャップの食いすぎで疲れているので、
真っ赤な絨毯の上に寝っ転がって休んでいるダケ♪

「んなわきゃねーーだろぉぉぉ!!!」

俺は全速力で教室から醍醐の元へと走り出した。



(誰だ……恋に破れた俺を呼び覚ますのは……)
『目覚めよ』
(目覚める…?もういいんだ。京一に色んな意味で敗れた俺なんか…)
『目覚めよ』
(俺は疲れた…もういいんだ…)
『ええい!目覚めろっちゅーんが聞こえんのかいな!』
(…?劉か?)
『ちゃうわ!ワイは壱百個(ビャッコ)や!』
(壱百個?白虎じゃなくてか?)
『うぐっ…んなことはええ!取り合えず目覚めーや!!』

醍醐の体に強烈な電撃が走る。
四肢を引き裂かんばかりの激烈な雷撃。
だが、醍醐は……

(はぁ〜〜〜〜ん♪♪キモチイイ〜〜〜〜♪♪)

『んがぁっ!?アカン!コイツネジがどっかいっとるわ!』

壱百個は強制的に醍醐を現実に引き戻す事にした。
醍醐を貫く電撃がより強くなる。
当然、醍醐の不気味な声も………。



「醍醐ぉ!醍醐ォォ!!」

俺は醍醐を揺するが、頭がガクンガクン偉い勢いで前後に振れるだけ。
そのうち、醍醐の顔から血の気がなくなっていった。

「だっ…醍醐ぉぉぉぉ!!」

ゴトリッッ!!

醍醐を手からすべり落とし、友人の死に悲しむ。
が、俺はその時の醍醐の異変に気づいていなかった。

「ゥゥォオオオオオオオ!!!!」
「!?!?醍醐!?」

急に血まみれの醍醐は立ち上がると、校服を脱ぎだした。
黒い真神の学ランが宙に舞う・・・・が、

ゴトンッッッ!!

「なっ…」

地面が醍醐の学ランによって抉られる。
本来ならパサリと落ちるはずだが、一体何を入れて・・・・。(汗)

「ウガァァゥゥゴォォォォオオ!!」

雄叫びを上げると、醍醐は白目をむきながら、口から泡を吹き出す。
泡の量がどんどん多くなり、最後には泡ではなく煙が出てきた。

「だっ…醍醐ォォ!!」

複雑な気持ちを込め、醍醐に訴える。

「お前、一体何者だぁぁぁぁ!!」

泣きながら訴える俺の声に気づいたのか、醍醐はピタリと動きを止めた。
そして、白目をむき煙を吐いたまま怪しく俺に微笑むと、
キラリと白い歯を見せながらこう言った。

「壱百個変☆」

キラリと光る歯が、荒んだ醍醐を綺麗に魅せる・・・・わけなかった。
むしろ不気味にすら見える。

「壱百個変つーよりも、アンタ変」

間髪いれず突っ込む俺。
すると醍醐は悲しみの涙と思われる様なモノを流し、再び吠えた。

「ぬ、ぬおぉぉぉぉぉぉぉおおおおぉぉぉおぉぉんんんんっっっっっ!!!!」

男泣き醍醐18歳。ただ今青春の辛さを実感中。
雄叫びとも泣き声ともつかないような声を上げると、醍醐は大きく跳躍した。

ドシュッ・・・・

「なっ、速ッッ!!」

飛んだと思った瞬間には、もう屋上に上って叫んでいた。

「壱百個へーーーん!!壱百個へーーーーん!!」

「タイショー……」

それは泣いているのか、それとも何かの暗号なのか、
俺にはさっぱり解らなかった。




 あとがき 


随分と昔に強引に頼み込んで書いて貰ったS氏からの頂き物です☆
当時は「第二話も書く!」と意気込んでいたんですが、どんな話だったのか聞いても今は「覚えてない」との返答。
二話は永遠に見れない模様です……(笑)
「百個変」という言葉が一時、私の中でブームになってしまい、何かあれば「百個変」と叫んでいた気がします♪

だけど、この作品は醍醐×京一なんですか?
冒頭は京一×龍麻を思わせておきながら素敵な仕返しですね!
最終的にどうなったのか個人的に気になるんですが、どうせならくつっいて欲しいなぁ…とか思ってみたり。(爆)
壊れた醍醐って結構新鮮だと思うんですけど……。
真面目なだけに壊し難いというか、それをやって退ける辺りが流石ですね☆
どうもありがとうございましたvvv


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